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この秋、ご一緒することの多そうなオーダー靴のブランド『delightful tool』。自分でも履いているこの靴がどうやってできているのか、あるやりとりがきっかけで気になってしまい、じっくりお話を聞く機会をいただきました。
ホーローシャツと同じオーダーという形で靴を作るdelightful toolの寺田さん、出会った時に「ご自身で作られているんですか?」と聞いて返ってきたのが「いや、僕は作っていないんです」
質問した方の僕は、「あ、つい自分を中心に考えた質問をしてしまった」と反省したのもつかの間、その「作っている方と寺田さんのやりとり」に興味が移っていました。
神戸にアトリエ・ショップを構える靴のブランド『Anchor Bridge』、ここがdelightful toolの製造を担っています。地盤とも言える製造現場を知らずしてブランドの全体を理解することはできないと思い、Anchor Bridge主宰の村橋さんにお話を伺いに寺田さんと神戸に向かいました。
柔らかな物腰で迎えてくださった村橋さんとの出会いを寺田さんに伺うと、それは必然だったんだなということが感じられました。
2012年頃、ブランド立ち上げの構想を温めていた寺田さんは、自分の思い描く靴を作ってくれそうな人を探していました。
共通の知人による紹介で出会った村橋さんは、当時Anchor Bridgeを立ち上げたばかり。
初めて会った二人は、好きな革やテイストの話をして意気投合。
当時、浅草にあった村橋さんの工房で靴を試し履きした寺田さんは確信します。
「これが求めていた履き心地」だと。
靴の製造には「木型」と呼ばれる靴の型が必要で、これをいちから作るのは相当な時間と労力が必要になります。
でも、このとき寺田さんが感じたのは「直し無し。村橋さんの木型で作って欲しい」ということ。これは二人がやりとりを始める上で多くのハードルを取り除いてくれました。
そんなラッキーあるの?!と聞きながら思ってしまいましたが、これが必然というやつです。
過度な装飾を好まず、いわゆる王道のデザインが好きだった二人がお互いのしたいことを理解するのにそう時間はかかりませんでした。
王道でシンプルだからこそ、カッティングや縫い方一つで大きく表情が変わってしまうことを理解していた二人ですが、そこには「村橋さんが作るものだったら大丈夫」という寺田さんの信頼、「寺田さんはこちらの好きなものをわかってくれている」という村橋さんの信頼がありました。
delightful toolとAnchor Bridge、ブランドは違えど両方の靴を制作している村橋さんに、それぞれの楽しさについて聞いてみました。
大きな違いは「素材」
普段ご自分のブランドで使わないような素材を扱うと「こうなるか!」と新たな発見があるとのことで、革とパーツの組み合わせはもちろん、履き込んだ経年変化に感動するんだそう。
delightful toolの素材選びについては、寺田さんの目線でスタンダードと感じられるものからあまり広げず、高価になりすぎないよう気を配っているといいます。
僕が「ローファーみたいなスリッポンやサンダルは難しいんですか?」と軽々しく聞いたのに対して、
「デザインの選択肢を広げたいとは思いつつ、今の形を着実に続けることの方が先決」という寺田さん。
いろんな靴があるけど、「まずは紐靴から入って欲しい」との願いがあるそうです。
紐をほどいて足を入れ、かかとを合わせて根元から締める。この基本動作ができていないまま「革靴は足が痛くなる」「履きにくい」と感じてしまっている人が多い中、革靴って履きやすいんだよという説明のきっかけは紐があってこそ生まれます。
もちろん、紐靴なら革とソール選びだけでなく、紐やハトメの具合などオーダーの際に選ぶ楽しみも増えますしね。
話も終盤になり、村橋さんが「寺田さんから聞くお客様の『履きやすい!』っていう声はすごく嬉しいんですよ」とこぼしてくれました。
自らもブランドを運営して店舗を構えているけど、どうも販売の文句を並べるのは得意ではないといいます。
作りのこだわりなら話せるけど、それがある一線を超えて売り文句になってしまった時にむず痒いんだそう。
だから、寺田さんのように「村橋さんが作る木型、靴だから『良いでしょ!』と言ってくれる方の存在は貴重」だと。
『作り手が直接売る』
これも伝えたい気持ちと知りたい気持ちを繋げる形としては最高の方法だと思います。現に、ホーローシャツもこの方法を取っています。でも
『信頼する作り手の作品を自信を持って届ける』
というのも、ブランドの本来のあり方だな。話すことがそれほど得意でない方に無理に前面に出てもらうのはちょっと違うなと再確認させられました。
まさにベストパートナーと呼べる二人の信頼関係から生まれる靴、みなさんにも体感していただきたいです。
お二人の話を聞き終わって「羨ましいな」という感想が自然と口をついて出ました。
これまでホーローシャツはほぼ全ての工程を自分のアトリエの中でスタッフと一緒に行ってきました。
それは「この塩梅で縫ってくれる工場なんてなかなかないだろうな」という考えからでした。でも、この二人の関係を見ていると「いや、どこかに必ず信頼できる縫い手がいるはずだ」と前向きな気持ちにさせてくれます。
今、その工場、人を探しています。すぐに見つかるものではないと思いますが、一軒一軒綿密に話をしていきながら、良いパートナーが見つかるまで動き続けるつもりです。
自分も縫うのが好きでやっているだけに、手を動かすのはやめませんが、「あの人も縫ってくれているから大丈夫」という信頼は、ブランドの発展には欠かせないと思っています。
これからのホーローシャツ、delightful tool、Anchor Bridgeの展開をお楽しみに。
delightful toolとご一緒するイベント
10月12日〜14日 Euphonica にて合同受注会
11月2日、3日 『会話とオーダーメイド』出展